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第十章・7
「お腹はすいていないか?」
「夕食、摂ってきましたから大丈夫です」
「暑くはないか?」
「浴衣なので、結構涼しいです」
やたらと心配性な、玄馬だ。
握った手も、離さない。
二人は、花火会場のステージ席に座っていた。
周囲は、花火を待つ人々でいっぱいだ。
風を送ってやる、と玄馬は扇子で幸樹をあおぐ。
扇子からは、かすかに良い匂いがした。
「玄馬さんの匂いがします」
「そうか? 嫌な匂いでなければいいが」
「とっても、素敵な香りですよ」
目立ったコロンは、付けない玄馬だ。
ただ、幸樹とのデートの時だけは、香りを纏う。
匂いで自分を感じてもらおうと、装う。
(やだな。何だか、興奮してきちゃった)
二人ベッドの上で愛し合う時も、この香りを味わっているのだ。
幸樹はその匂いに、セクシャルな部分を引き出されてしまった。
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