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第十一章・5

 翌日、幸樹は玄馬と待ち合わせのカフェで、アイスティーを飲んでいた。 「まさか、婚約指輪、じゃないよね」  期待に胸は膨らんでいたが、翔の一件があるのだ。  幸樹は、心にストッパーを作っていた。 「これ以上、期待しちゃだめだ」  それは、玄馬さんと一緒になれれば嬉しいけど……。  シルバーのリングを見ながら物思いにふけっていると、頭上から声がした。 「いい指輪だね。だけど、私なら君にもっとふさわしい物をプレゼントできる」  見ると、にこにことやたら愛想のいい、スーツの男性が立っていた。  幸樹の許しも得ずに向かいの席に掛け、その手を取って来る。 「一人? それとも、待ち合わせ?」 「待ち合わせです」 「このシルバーの贈り主かな。悪いことは言わないから、私について来なさい。良いもの、買ってやるから」  幸樹が困っていると、玄馬の姿がこちらに向かってくる。 「あ、あの。待ち合わせの人、来ましたから」  しかし、幸樹の心遣いは少し遅かった。  ものすごい形相で、玄馬は男の襟をつかんで引きずり立たせたのだ。

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