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第十二章・3
『明日、よろしければ一緒にお食事を、と思いまして』
「時刻指定はありますか?」
『ランチはいかがでしょう。九丈さんのことを、もっとよく知りたいと思います』
「そうですか。では、都合を付けましょう」
後は細かな約束を結んで、玄馬は通話を切った。
「私のことを、もっとよく知りたい、か」
残念ながら、知れば彼の計画は不可能になるだろう。
玄馬は幸樹の存在を明らかにして、翔からの求婚を断るつもりでいた。
「また勝手をしたら、松崎に叱られるな」
しかし、もう自分に誓ったのだ。
「私には、幸樹しかいない」
走り書きのメモをスマホのスケジュールに入力し、その紙は屑籠に捨てた。
翔を捨てたわけではないが、わずかに罪悪感が浮かんで消えた。
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