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第十三章・9
「それに……」
「それに?」
「私にはもう、心に決めた人がいるんだ」
は、と翔は思い出した。
花火を観た時に会った、シルバーのリングをした少年。
九丈さんの隣に寄り添っていた、きれいな子。
「あの人。やっぱり、そうだったんですね」
「バレてたか」
でも、と翔は玄馬を見上げた。
「彼は、堅気の人でしょう? いいんですか? 大丈夫なんですか?」
「結婚を申し込めば多分、彼の身内は猛反対するだろうね」
「引き裂かれるかもしれないんですよ、二人は」
「それでも私は、生涯をかけて彼を愛すると決めたんだ」
話をしながら、玄馬は翔の衣服を整えてあげた。
ボタンをかけ、タイを結び、ジャケットを着せた。
「すみません。私が一人で空回りして」
「いや、私こそ。大切なことを、心に刻ませてもらった」
幸樹を、心から愛している。
そのことに、改めて気付かせてもらった。
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