124 / 195

第十四章・2

 ある日の午後、玄馬は組事務所で仕事の真っ最中だった。  ここまで済めば、めどがつく。  そう考えながら、頭を忙しく働かせていた。  そんな折、部下が社長室へ入って来た。 「社長。今日はもう、お帰りになった方が」 「何だ。まだ昼日中じゃないか」 「台風が、近づいております。どうぞマンションに戻って、備えてください」 「台風?」  窓の外を見ると、強風で街路樹の木立がざわめいている。  ばらばらと、雨粒がガラスに叩きつけられている。 「台風なんか、来てたのか」  そこで、すぐに幸樹を思った。  平日の、午後である。  彼は、大学へ行っている頃だ。  どれ、と台風情報を確認すると、夕方には接近する、との予報だ。 「幸樹を、迎えに行こう」  ためらいもせず、玄馬は仕事を途中で終わらせ、急ぎ車に飛び乗った。

ともだちにシェアしよう!