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第十四章・2
ある日の午後、玄馬は組事務所で仕事の真っ最中だった。
ここまで済めば、めどがつく。
そう考えながら、頭を忙しく働かせていた。
そんな折、部下が社長室へ入って来た。
「社長。今日はもう、お帰りになった方が」
「何だ。まだ昼日中じゃないか」
「台風が、近づいております。どうぞマンションに戻って、備えてください」
「台風?」
窓の外を見ると、強風で街路樹の木立がざわめいている。
ばらばらと、雨粒がガラスに叩きつけられている。
「台風なんか、来てたのか」
そこで、すぐに幸樹を思った。
平日の、午後である。
彼は、大学へ行っている頃だ。
どれ、と台風情報を確認すると、夕方には接近する、との予報だ。
「幸樹を、迎えに行こう」
ためらいもせず、玄馬は仕事を途中で終わらせ、急ぎ車に飛び乗った。
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