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第十六章・4

 驚いた。  この火加減、私の好みとぴったりだ。  黄身の周辺は程よく固く、中心に向かうほど柔らかくなっている。 「幸樹に、私の好きな卵の火加減を、いつか話したかな?」 「いいえ。僕の好みなんですけど、良くなかったですか?」  美味しくなかったら、残してください。  そんな殊勝な幸樹の言葉に、玄馬は慌てて手を横に振った。 「いや、その逆だ。あまりに私の好みに合ってるものだから」  こんなに美味しい食事を、残せるはずがない。  玄馬はよく噛み、味わって食事をとった。  いつもの、新聞片手に栄養機能食品なぞポリポリ食べている朝とは、大違いだ。  さらに、目の前に幸樹の笑顔があるのがいい。  台風のことなど話す、声が聞こえるのがいい。 「そうだ。食事がすんだら、お洗濯しますね」 「幸樹は、お客さんだぞ? そんなこと、させられない」 「お客さんだなんて、言わないでください」  今日は家事を任せてください、と言う幸樹は、幸せそうな表情をしていた。

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