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第十六章・5

 玄馬がリビングでノートパソコンを使って仕事をする間、幸樹はよく働いた。  洗濯に、掃除。  観葉植物の水やりに、熱帯魚への採餌。 「幸樹、ソファでゲームでもしていればいいのに」 「僕がやりたいだけですから」 「掃除なんか、ロボット掃除機に任せていいんだ」 「ごめんなさい。うるさかったですか?」  それには、首を横に振る玄馬だ。 「うるさい、だなんて。とても心地いいよ」  そう。  玄馬も、好きでリビングに居るのだ。  仕事に集中したいなら、書斎にこもればいい。  彼が、そうしなかったのは。 (何だろう、この幸せな心地は)  玄馬は幸樹の姿や、彼の立てる物音に、この上ない安らぎを感じていた。

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