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第十六章・6

「玄馬さん、台風は停滞してます。暴風域を抜けるのは、明日になりそうです」 「台風も、粋なはからいをしてくれる」  幸樹の作ってくれた昼食をとりながら、玄馬は喜んだ。 「もちろん、もう一泊してくれるんだろう?」 「いいですか?」  ずっと。  このままずっと、ここに居て欲しい。  玄馬は心の中でそう思ったが、言葉にはしなかった。 (幸樹を、困らせるだけだ)  彼は、堅気の人間なのだから。  ちょっぴり切ない昼食は、冷やし中華と海藻サラダ。 「たんぱく質が、足りなかったかなぁ」 「これで充分だ。最近、ろくに食事を摂っていなかったからな」 「いけませんよ。ご飯はちゃんと食べないと」  こんな些細な会話が、嬉しくも切なかった。

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