151 / 195
第十六章・9
「夕食は、ステーキにしました!」
「やった!」
玄馬さん、すごくお仕事がんばりましたから、ご褒美です。
そんな幸樹の言葉に、疲れなど吹き飛んでしまう。
もちろん、肉の焼き加減も玄馬の好みに合わせてあった。
「美味い! このソースも、よくできてる!」
「時々、お母さんが作ってくれたんです」
入学式や卒業式など、晴れの日には自宅でステーキを焼いてくれたという、幸樹の母。
玄馬は、そんな人に興味を持った。
「幸樹を生み、育ててくれたお母さん、か。どんな方だったんだ?」
「優しいけど、頑固なところもある人でした」
幸樹を身ごもったことが解ると、何も告げずに愛する男性のもとから去った。
その後も、病気で亡くなるまで、一度も彼とは会わずに生涯を終えた。
「だから僕、お父さんのことは何も知らないんです」
「そうか。すまない、悪いことを訊いたな」
だが、こんな素敵な幸樹を育ててくれた人なら、きっと素晴らしい人だったに違いない。
玄馬は、そう考えた。
心から、幸樹の母に感謝した。
ともだちにシェアしよう!