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第十六章・9

「夕食は、ステーキにしました!」 「やった!」  玄馬さん、すごくお仕事がんばりましたから、ご褒美です。  そんな幸樹の言葉に、疲れなど吹き飛んでしまう。  もちろん、肉の焼き加減も玄馬の好みに合わせてあった。 「美味い! このソースも、よくできてる!」 「時々、お母さんが作ってくれたんです」  入学式や卒業式など、晴れの日には自宅でステーキを焼いてくれたという、幸樹の母。  玄馬は、そんな人に興味を持った。 「幸樹を生み、育ててくれたお母さん、か。どんな方だったんだ?」 「優しいけど、頑固なところもある人でした」  幸樹を身ごもったことが解ると、何も告げずに愛する男性のもとから去った。  その後も、病気で亡くなるまで、一度も彼とは会わずに生涯を終えた。 「だから僕、お父さんのことは何も知らないんです」 「そうか。すまない、悪いことを訊いたな」  だが、こんな素敵な幸樹を育ててくれた人なら、きっと素晴らしい人だったに違いない。  玄馬は、そう考えた。  心から、幸樹の母に感謝した。

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