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第十六章・10
「全く。台風がこの強さで停滞するなんて!」
カフェの1階で、窓枠に補強をしながら、遠山は毒づいていた。
「幸樹くんは、九丈さんのところから帰ってこないし!」
あの二人の仲なら、そのままベッドも共にしたに違いない。
「ああ、幸樹くん。君のお母さんに、あわせる顔がないよ……」
幸樹の母・奈津美(なつみ)。
彼女を思い、遠山は瞼を閉じた。
その手に触れることもなく去って行った、最愛の人……。
そこへ突然、ドアを叩く音がした。
風の音かと思ったが、それは人がこぶしで強く叩く音だ。
「こんな台風の中で。誰だ?」
ドアが飛ばされないように用心して、遠山は表の人間を屋内へ招き入れた。
「本日は、休業なんですが」
「こちらに、桂 幸樹さんがいらっしゃいますね?」
差し出された名刺には『ミドリ法律事務所 弁護士・堀口 雅夫(ほりぐち まさお)とある。
「弁護士さん? こんな台風の中、一体何の御用で?」
「一刻を争いますので。幸樹さんの、お父様からのご依頼で参りました」
遠山は、愕然とした。
(幸樹くんの、お父さん!?)
風雨が、どっと強まった気配がした。
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