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第十七章・3
「幸樹くんのお父さんは、癌を患っておられてね。長く闘病してらしたが、最近自宅へ戻られた」
「病気が、治ったんですか?」
「いや、その逆だ」
遠山の言葉に、玄馬は考えを述べた。
「余命は、自宅で過ごしたい、と?」
「その通り。家族に看取られたい、とのことだ」
そんな、と幸樹は震えた。
(せっかく、お父さんに会えると思ったのに)
そんな幸樹に、玄馬はコーヒーをそっと差し出した。
「辛いだろうが、今は現実を受け入れるしかない」
「はい」
コーヒーを一口飲む幸樹を見届けてから、遠山はうなずいた。
「お父さんは、今まで幸樹くんを放っておいた、と心から後悔しておられるそうなんだ」
『幸樹に、会いたい。そして、私の子として籍を入れたい』
「それが、お父さんの意志だそうだ」
「お父さん……」
幸樹は、母の言葉を思い出していた。
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