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第十七章・5

 すぐに遠山は、戻って来た。  二人がカウンターの下で手を握り合っていることなど知らず、にこにこと幸樹に伝えた。 「今から堀口さん、来てくれるって」 「そうですか……」 「ん? 嬉しくないのかい?」 「お父さんに会えることは、嬉しいです。でも、そんなに急ぐってことは、もう……」  父は、長くないのではないか。  そんな思いを、幸樹は抱いた。 「長くないなら、その短い時間を精一杯大切に使うんだ。幸樹なら、できる」 「玄馬さん」  遠山は、無言でうなずいた。 (先ほどからそうだが、この九丈さんはしっかり幸樹くんを支えていてくれている)  以前なら、遠山が言っていたようなことを、玄馬は幸樹に話している。  二人の絆を、嫌でも思い知らされた。  もう、この二人は引きはがそうとしても、できないのかもしれない。  ただの恋愛ごっこでは済まされない、深いつながりを二人から感じ取っていた。

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