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第十七章・8
「僕、お父さんに会いたいです。そして、いろんな話をしたいと思います」
母が、死ぬ間際まで父を愛していたこと。
これだけは、伝えたい。
そう、思っていた。
『お父さんは、人の上に立つお仕事をする、立派な方よ』
息子である僕に、そう伝えていたことも、聞かせたい。
「遠山さんが反対なら、僕はお父さんの籍には入りません。でも、会いたい。それだけは、かなえたいと思います」
幸樹、と玄馬は彼の肩をそっと抱いた。
「泉田さんは、とても良い方だ。心配しなくても大丈夫だ」
遠山は、幸樹に掛ける言葉をなくしていた。
(ヤクザを毛嫌いしてきた私だ。幸樹くんの父親が組長となると、彼が苦しむ)
だから、一言だけこう伝えた。
「お母さんが。奈津美さんが愛した人を、その目で確かめてきてくれ。幸樹くん」
「はい」
二人の男に支えられ、幸樹は父に会う覚悟を決めた。
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