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第十八章・5
「泣かないでくれ。笑顔を、見せてくれ」
「お父さん……、お父さん!」
父に触れられた時に、全身に喜びが駆け巡った。
それは理屈ではない、親子の血がそうさせるものだった。
「ずっと独りぼっちにしておいて、すまなかったな」
「いいんです。こうして会えただけで、僕はもう」
「死ぬ前に、会って話したかった。私は奈津美を愛し、幸樹も愛している、と」
死ぬ。
死ぬだなんて、そんな。
「お父さん、死なないで。せっかく会えたのに」
いつの間にか傍に来ていた玄馬が、父にすがる幸樹の肩を、そっと動かした。
「幸樹。あまり根をつめて話しすぎると、お父さんが疲れてしまう」
「は、はい」
幸樹は、いったん父から離れた。
そして、勧められるまま円卓へ掛けた。
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