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第十九章・8

「ただいま帰りました」 「おかえり、幸樹くん!」  どうだった? と勢い込んで話す遠山の顔つきは、やや心配そうだ。 「素敵でした……」  どこか、うっとりとした幸樹の眼差し。  ここに居ながら、どこか別の場所に魂を置いてきたような、微笑み。 「幸樹くん。私が訊いているのは九丈さんのことじゃなくって、お父さんの方!」 「え!? あ! ごめんなさい。素敵な人でした!」  まったく、と遠山は腰に手を当てた。 「おおかた、別れ際にキスでもしたんだろう。ん?」 「あ、はい……」 (遠山さん、ごめんなさい。それ以上のこと、やってきました……)  しかも、僕の方からおねだりをして!  恥ずかしい。  でも、思い切って言ってみて良かった。  互いに結婚の意思があることを確かめ合い、一歩踏み出せたような気がする。 (明日は、お父さんが遠山さんに会いに来てくれる)  どうか二人が、意気投合できますように。  そして、玄馬さんとの結婚を許してもらえますように。  心から、そう願わずにはいられない幸樹だった。

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