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第ニ十章・4
「遠山さん。お母さんは、病気で弱った姿を、誰にも見られたくない、と言っていました」
幸樹が、そっと言った。
「お母さんの気性、覚えてるでしょう? 優しいけれど……」
「頑固者、だったね」
遠山は、結んだ唇を無理に上へあげ、笑顔にした。
せっかく、奈津美さんが愛した男が訪ねて来たのだ。
笑顔で明るく、故人を偲びたかった。
そんな遠山の姿に、敬之は胸を打たれた。
奈津美の生を、死を、この人はしっかりと受け止めてくれたのだ。
そして、残された幸樹を、こんなにも立派に育ててくれた。
自然と、頭を下げていた。
「さすが、奈津美が認めただけのことはある男だ」
私は、意気地のない人間です、と声を震わせた。
「人を使って、奈津美の境遇は調べさせていました。彼女が、亡くなったことも知りました」
しかし、葬儀に出る勇気がなかった、と敬之は一粒涙をこぼした。
「葬儀場の陰で、出棺される奈津美を、見送ることしかできませんでした」
警護の者もつけず、ただ一人で斎場へ駆けつけた敬之。
しかし、その顔も見ることなく、ただ天国へ向かう彼女を見送った。
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