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第ニ十章・8

「婚約した途端に、九丈さんのマンションへ泊りに行く、だなんて」  ぼやく遠山に、敬之は笑った。 「幸樹は思っていたより、大人になっていました。これで九丈さんと一緒になれば、私はもう、思い残すことはない」  安心して、奈津美に会いに逝けます。  外は宵闇が深くなっており、敬之は人生の終焉を味わっていた。 「最後にあなたに会えて、良かった」 「さっきから聞いていると、気の小さいことばかりおっしゃる。泉田さん、あなたはもう少し、欲を出した方がいい」 「と、おっしゃいますと?」 「孫の顔を見るまで死ねない、とか」  飲み物は、コーヒーから日本酒に代わっている。  遠山は、とっておきの酒を敬之に振舞っていた。 「これは美味い」 「でしょう?」 「遠山さん。できれば時々こうして、共に飲んでいただけるでしょうか?」 「喜んで。九丈さんの蔭口でも叩きましょう」  それはいい、と二人で笑った。  奈津美が、その姿を見守ってくれているような、いい気分で酔った。

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