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第二十一章・6
余命一か月、と宣告されていた敬之だったが、その期間を過ぎてもなお、永らえていた。
いや、逆に元気になっていた。
以前、遠山に言われた言葉が効いていた。
『孫の顔を見るまで死ねない、とか』
玄馬と幸樹の結婚を許してから三週間後、二人から喜ばしい報告を受けていたのだ。
「まさか、早々に赤ん坊を授かるなんて!」
「手放しで喜べませんよ、泉田さん! 挙式の前にできちゃった、なんて!」
半ば憤った遠山を、敬之は笑顔でなだめた。
「喜びは、いつも突然にやってくるものですよ」
「まぁ、それはもう致し方ないとして」
ますます死ねなくなりましたな、泉田さん。
そんな冗談めかした遠山の言葉に、敬之はうなずいた。
「挙式に、出産。こうもイベントが目白押しだと、死ぬに死ねませんよ」
二人は、敬之の持参したワインで乾杯した。
数奇な絆は、男たちを強い友情で結んでいた。
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