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3.獺-4
素肌に己の手が触れるひやりとした感触。脊髄に走るわずかな震えを、少しでも強く感じようと目を閉じる。
眠るサマリサの吐息を耳元で聞き続けて、すでに少し期待に膨らんでいた己のものを、指の腹でそっとなぞる。一本、一本と指を這わせ、包み、撫でさする。
(ん……)
一人で旅をしていた頃はそのような欲求は薄かったのに、最近の私は密かに熱を抱えることが多くなった。
春の海で触れ合って以来、何度か同じように戯れあったことはあったが、私たちは未だに最後までしたことがない。
抱き合い、触れ合い、達するだけで、その時は満足してしまうのだ。あまりにもその瞬間は幸福で、あたたかいから。サマリサの方から続きを要求してくることもない。
こちらからも誘えないまま、近頃はこうして、サマリサの不在や寝入りを見計らって自分を慰めることが多くなっていた。
(誘えば、乗ってくるのだろうか)
ゆるゆると立ち上がった己を、音を立てないよう手先の動きだけで愛撫しながら、ぼんやりと思う。
目の前にあるのは規則的に上下するサマリサの背中だけだ。
くるりと彼が向きを変え、あの茶色い瞳でこちらを見つめるのを想像してみる。太い腕が伸び、私の腰を抱き、大きな手で尻をそろりと撫でられるのを。ざわりと総身に一際強い震えが走った。
(ああ、くそっ)
思わず手に力がこもる。刺激によっていっそういきり立った己の先端を、指の腹でぐりぐりと摘み、押し潰す。跳ねそうになる腰の下、まだ一度も彼を受け入れたことのない菊の花が、僅かにひくつくのを感じてしまう。
触れ合いを重ねる度にその時が近づいているのを察しつつも、あとひと押しができないままでいる。
要は怯えているのだ。あんな大口を叩いておいて、我ながら情けない。
(ふっ……、……っく、っ……)
漏れそうになる喘ぎを歯を食いしばって耐える。
言い出せないのは、恥ゆえ、恐怖ゆえ。
そうした思考が、身体の求めと食い違う。
他人に抱かれたことなどないのに、不思議とわかる、欲している。
(お前の、せいだ)
締め付けるように手をしごけば、甘い痺れが全身の血管を駆け巡る。噛み殺した呻き声に苦しくなる。
詰める必要のない息を詰め、抑える必要のない声を抑える。
一言、口にすればいいだけなのに。ほんのわずか、彼の肩を揺すればいいだけのことかもしれないのに。
できない。怖いから。少しでも拒まれたら。反対に、自分には受け止められなかったら。だのに、ああ、
(欲しい)
ぞわぞわとする腿を抑え込むように擦り合わせる。我慢のしすぎでじわりと頭が痛くなってくる。ただでさえ暗い視界がさらに歪み、思考は欲望に溺れ切る。
(欲しくてたまらない……!)
怒張はもはや限界を迎えようとしていた。いつの間にか己の全身に熱がこもっているのを感じる。彼に伝わりはしないだろうか。必死で潜めているはずの息が、実は彼にははっきりと聞こえていたりはしないだろうか。
いっそ、そうであったらいいのに。
達する寸前で、あえて手を止めた。
これもいつものことだった。処理まですると、本当に彼を起こしてしまうかもしれない。
それに、何となく、その感覚は、彼と共にするときのために取っておきたかった。
押し殺した長い一息をつき、そっと目の前の背中に顔を寄せる。
広い背だ。私よりも逞しく、厚く、堅く、無骨と言えば無骨な背。けれど、私の知る他の誰よりも、
(あたたかい)
興奮に明滅していた意識が、疲労と安心感にくたりと溶けていく。
その心地よい温度に、眠りに落ちる刹那、額を擦り寄せてしまった気がした。
夜も更けきった頃、男は横たわったまま、己の赤い前髪をくしゃりと掴み、長いため息を吐いた。
寝返りを打ったサマリサの目の前にあるのは、全くもって素直ではなく、彼にとっては何よりも可愛らしい、眉目秀麗な絵師の安らかな寝顔。
「びびってるのはお互い様、か」
掠れた声は小さすぎたのか、テンキが目覚めることはない。
黒髪の間から覗く白い額にそっと口付けをして、サマリサは目を閉じ、夏の短い夜を密かに呪った。
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