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第2話

ここは東京の都心から少し離れた場所にある、全寮制の大学の附属男子校。 中等部から高等部まであり、成績が学校規定のラインより上ならばそのまま試験もなく大学まで行けると言うことで、赤点以上の成績を取れさえしていれば受験などに心悩ますことなく6年間たっぷりと青春を謳歌できる。 ただし全寮制のため門限は厳しく、しかも周囲にはこの学校目当てに建てられたコンビニと数軒の食堂とラーメン屋などがあるのみで、あとは家もまばら。遊びに行くにも時間はあってもお金のない学生達は外出もままならず、結果的に学校や寮の中で友達と話をしたり、趣味の活動をしてみたりと、それぞれおもいおもいの時間を過ごしていた。 寮の部屋は三人部屋で、ベッドはシングルが3つ。1〜3年生が一人ずつ配される。 3年生が卒業すると、何かよほどのことがない限りは残った二人に新しく入学してきた1年生が加わるという形が取られている。 律の部屋も2年生の律と、3年生の志貴、それに1年生の宗也と言う組み合わせだ。 律と志貴は中等部の時にも同室だった為、特に問題もなくそのまま1年生の宗也が加わった。 ただ一つだけ問題があるとしたら、志貴の律への距離感だろうか。 宗也は性格も明るく、多趣味で人当たりもいい。なので友達も多く、学校でも寮でも知っている人は当たり前だが、知り合いかどうかも思い出せないような人にまで声をかけられ、いろいろな生徒に誘われる。宗也自身も楽しいことには積極的に参加するタイプなので、自室にいることは少ない。そんな諸々から解放されてようやく部屋に戻ると、おかえりというようによっと手を上げる志貴とその腕の中にすっぽりと包まれて顔を赤くして俯く律の姿がベッドの上にあるというのがこの部屋の日常風景だ。 最初に見た時は流石にビビって凍りついた宗也も、数ヶ月この部屋で過ごした今ではまたかと言うため息しか出て来ない。 「律先輩が嫌がってますよぉ!その内、嫌われちゃうんじゃないんですか?」 そんな軽口も叩けるようになった。 慣らされちゃったなぁ。 そんなふうに思いながらため息をつきつつ、自分の勉強机に向かい座る。 「もう、志貴さん離してください!俺も明日の準備するんで…ちょっと、志貴さん!」 いつもは志貴がわかったよと言うようにすぐに手を離すのに、今夜はその様子がない。焦る律の声を不審に思った宗也がそっと後ろを振り向くと、律の首筋に舌を這わせている志貴と目が合った。 流石にこれは距離感とかって言う話のレベルじゃないだろ!? 目を見開き顔が赤くなる宗也に志貴の口が、内緒な、と動いた。 内緒って…え?そう言う事…え?ぇええええええええ!? 顔を元に戻し、机に突っ伏す。 男子校では良くあることといえばよくある事だ。現に宗也の周囲にも男同士で恋愛している奴らを何人も知っている。 確かにそう考えれば、志貴先輩の距離感がおかしいのも分かる…いや、でもっ! 再び後ろをチラッと振り返ると、律の身体がふるふると震えて手で口を覆っている。志貴もちらっと視線を上げて宗也を見るとクイっと扉に向かってニヤッと笑いながら顎をしゃくった。 出てけってことかよ!? だけどここは僕の部屋でもあるんだぞ! そう思い、無視を決め込んで勉強しようとしても、だんだんと二人の行為が激しくなっていっていると分かる音が耳に入り、宗也の心も身体もそわそわとし始める。 またもちらっと振り返るとそれを見越していたのか、まるで自分に見せつけるように志貴の手が律の服の中で蠢塞いている。少し見えている律の腹がいやらしくビクンビクンと動くのを見て、ごくんと宗也の喉が無意識に鳴った。両手で塞ぎ切れずに口からこぼれ出る律の苦しそうな声にとうとういたたまれず、宗也は机に広げた教科書などを急いで抱え込むと、自習室に行って来ます!と言いながら志貴を一睨みして扉を開けた。廊下に出た宗也の耳に律の甘い声が届き、急いで扉を閉めようとした宗也の手が止まる。 何で僕がこんなに気を遣わなきゃいけないんだ?! こんな風に焦らされ、自分を部屋から追い出した志貴への言えない文句をその手に力として込めると、大きな音をさせて扉を閉めた。

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