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第3話

先輩の声…可愛かったなぁ。 自習室に駆け込んできたはいいが、宗也の頭の中は先程聞いた律の声がぐるぐると繰り返され、その事だけで許容範囲いっぱいとなった頭は、開いた教科書の文字を一応は目で追ってはいるが、一体何の教科なのかも分からないくらいだった。 しばらくそうやっていたが、ようやく少し落ち着きを取り戻した宗也が部屋に残して来た二人のことを思い出し、イヤな考えが頭をよぎった。 そう言えば、律先輩と志貴先輩の二人きりにして出て来ちゃったけど…どこまでヤるつもりなんだろ…まさか最後まで…とか? …って、いやいや、ちょっと待てよ…そしたら僕ってどのタイミングで部屋に戻ればいいんだ? うっわー!マジで志貴先輩、勘弁してくれよぉ!! 三方が囲まれた自習室の机に突っ伏して、大きなため息をつく。 もう、消灯時間も近いし…そろそろ僕も帰るだろうってことくらいは、どちらかが気がつくよなぁ…流石にそれくらいの倫理観は持ってる…と願おう。 宗也が意を決して椅子から立ち上がると、まったく勉強できなかった自習室をのそのそと後にした。 就寝前の準備で忙しなく動く生徒達の間を、おやすみと声を掛け合いながら歩き、部屋の前まで来てノブに手をかけるが一瞬考えてそれから手を離し、いつもはしないノックをした。 「誰だ?」 中から志貴の声がする。 「宗也です…いいですか?」 自分の部屋なのに、何でこんなお伺いを立てなきゃいけないんだ?! そう心では愚痴ってみても相手は先輩二人。仕方ないと思いながら答えを待つ。 「お前の部屋なんだから、入って来いよ。」 志貴の答えに宗也がイラッとする。 その僕の部屋でもあるここから出ていけと目くばせしたのはあんただろうが!! そう怒鳴りたいのをグッと飲み込み、ノブを静かに回して扉を開ける。部屋は常夜灯が点いてるだけで、明るかった廊下から入って来た宗也の目は暗がりに何も見えず、扉の前で足を止めた。 「扉…閉めて。」 律の声に宗也が慌てて後ろを振り返って両手でノブを掴んで扉を閉める。 部屋に向き直ると、薄いカーテンから月明かりが差し込み、その明るさと慣れて来た目のおかげで宗也にも周囲の景色が少しずつ見えて来た。 「律…もうちょっと…もっ…少し…そう、いいぞ…律…っ!」 志貴の甘い声が耳に届き、まさかとベッドに視線を向けると、重なり合う二人の影が動いている。 倫理観、なかったか…しかも、最悪のタイミングっていうやつだし… 宗也が大きくため息を吐き、ベッドに背中を向けたままで、月明かりを頼りに自分の机に向かってコソコソと歩き出す。 「宗也…ごめん。もう少し…だから…ごめんね。」 宗也の背中に向かって謝る律の声に宗也の顔が赤くなり、先程の甘い声も思い出して身体が火照っていくのがわかった。 「律先輩は謝らないで下さい。志貴先輩がそうやって律先輩を…えっ?!」 たまらずに声を上げてベッドに向かって振り向いた宗也の体が動きを止めた。 志貴が律をいいようにしていると思って振り向いた宗也の目が見たものは、志貴の腰を掴み、自分の腰を突き動かしている律のあられもない姿だった。 「え?!律…先輩が、シてるんですか?」 あまりの衝撃に宗也が口走る。 それを聞いて、律と志貴が顔を見合わせて笑い出した。 「そうだよ。僕が…攻め?だよ。」 「宗也、笑わ…っすな…って…。律、さっさと…イかせ…っーーーーー!!」 笑っていた律の顔から笑顔が消え、志貴の腰を掴み直すと、ベッドが壊れるのではと心配になるほどにギシギシと激しく音を立て腰を激しく動かす律に、我慢できなくなった志貴の背中がぐんとのけぞった。 あれだけ大きく鳴っていたベッドが音を立てるのをやめ、律の激しく動かしていた腰が志貴の腰にグイグイと押し付けられる。静かに時間が過ぎる中、ぽたぽたとシーツに雫が垂れるのが見え、宗也にも二人が果てたことが分かった。しばらく誰も喋ることなくはぁはぁと荒い息遣いだけが響き渡る部屋で、肩を揺らしていた志貴と律の身体がようやく離れた。

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