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magic of love
「朋弥くんさ……」
「うん? 何ー?」
「……最近、担任と仲良いよね」
「へー?」
1つの狭い机の上に2つのお弁当箱を広げた後、目の前の孝治くんが酷くつまらなそうな声を出して。
そうかなー? なんて首を傾げつつお箸を取り上げたオレに、孝治くんは、そうだよ、と不機嫌に呟く。
「それになんとなく……」
「なんとなく……?」
「…………----いいや、なんでもない」
「何? 気になるんだけど」
「気にしなくて良いよ」
いつもなら孝治くんは笑ってくれたはずなのに、今日はムスっと黙り込んでしまう。
その反応が何となく淋しくて、なんとなく----恐い。
そんな風に思いながら、一言も口をきかずに黙々とお弁当を食べるしかなかった。
ひょんなコトから知ってしまった2人の秘密に、酷く動揺して。同時に、悔しくなった。
彼を下の名前で当たり前のように呼ぶことや、彼が柔らかくて優しい、気を許した人間にしか見せない笑みを返すこと。
自分が長い時間を掛けて築いてきた信頼を、あの男は二ヶ月かそこらで築き上げたのだと、気付いたあの時。
動揺は、嫉妬に変わった。
どうにかこうにか抑えてきたハズの彼への想いさえも、憎しみに煽られて暴走しそうだった。
朋弥くんが好き。
気付いたのはいつだっただろう。
警戒心むき出しだった彼が、自分から笑いかけてくれた時?
それとも、信頼しきって暖かく笑ってくれた時?
躊躇いがちに、けれど嬉しそうに、孝治くん、と呼んでくれた時?
きっとどれも正しくて、どれも違う。
オレはたぶん、初めての出逢いで恋をして、ことあるごとに君を好きになっていったんだ。
----なのに。
「朋弥ー」
「……てゆーかさ、フツーに呼びすぎじゃない?」
「そう?」
「そーだよ。だいたい相沢はさ」
「……朋弥だって、いつの間にか“先生”じゃなくなってるじゃん」
「ぁ」
楽しそうに嬉しそうに笑うから。
だからもう、どうしようもないくらいに。君への想いとあの男への嫉妬がこの胸で渦巻いて。
苦しくて悔しくて仕方なかった。
グラウンドの隅にあるベンチに、ぽつんと誰かが座ってるのを見つけて職員室を出る。
今はテスト前で、クラブ活動は停止中。生徒の殆どがもう下校しているはずの時間だった。
そんな時間に、しかも所在なさ気に座ってる姿がなんとなく気になって、グランドを歩いて行くうちに、その生徒が彼であることに気が付いた。
「朋弥? 何してんのこんなトコで」
「ぇ? あ…………----うん、なんでもない」
「なんでもなくないでしょ、そんな顔してさ」
何があったの、となるべく普段通りを装って聞いてみても、別に、と儚く笑うばかりで。
「だから、嘘吐くなってば」
「うるさいなっ」
笑おうとした途端に、悲鳴じみた声が遮って。おそるおそる覗き込んだ顔は、何かを堪えるように唇が引き結ばれている。
「…………ともや?」
「な、んだよっ……オレのことなんかっ、なんも! 知らないくせにっ……嘘つくなとか……そんな知ったようなこと言うなよっ」
「なに、言って……」
き、と力無く睨む目に、光るモノを見つけた気がして、言葉を上手く見つけられなくなった。
「こぉじくんの方がっ……なんでもオレのこと、知ってるハズなんだからっ」
「…………こうじくん?」
「なのになんでオレっ……」
「……朋弥? ちょっと落ち着いて……」
「うるさいよっ」
吐き出すように呟いた朋弥の目から、今度こそ間違いなく雫が零れて。
「ともや……」
「オレっ……なんでオレ……ずっと傍にいてくれたのに……なんで……っ」
「…………櫻木、と……なんかあったの?」
「………………オレ、は……」
そこまで呟いた後で、脇に放ってあった鞄をひっ掴んだ朋弥は、何かから逃げるようにして走っていってしまう。
「……ともや……?」
急な行動に後を追うことも出来ずに。
キョトンと立ち尽くすしかなかった。
「………………マジかよ……」
全てを聞いたオレがそう呆然と呟いたのは、その数日後。
どこからどう見ても優等生の顔をしてないアイツが、心底嫌そうに口を開いてからだった。
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