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第3話

わずかな自由時間。 僕は敷地内にある花壇の世話をしながら、大好きな花を眺めていた。 僕と関係を持った上官が僕の花好きを知り、花壇を作る事を許可してくれて種まで取り寄せてくれた。 『花言葉が勝利の花をいくつか選んで欲しい』 そう言われていくつか候補を挙げたけれど、上官から渡されたのはオダマキとキンレンカの種だった。 僕が死ぬまでに咲かせてあげたい。 そんな僕の願いは叶って、殺伐としたこの場所に花たちは可憐に美しく咲き誇ってくれた。 「綺麗に咲きましたね。俺、毎日この花壇の花が咲くのを心待ちにしていたんです」 「……君は……」 声のする方を振り返ると、僕と同じ隊服を着た、背丈は僕よりかなり高いが僕と同じ歳ごろに見える男性が立っていた。 「初めまして、鮎原士郎です。実家が造園業を営んでいて、幼い頃から植物に囲まれて過ごしてきたので花が好きなんですよ」 低くて澄んだ声。 涼やかにも見えるその精悍な顔立ちとがっしりとした体つきは、勇ましい軍人として申し分ないと僕は思った。 「岩浪純一です。僕も家が華道の家元で、幼い頃から花と親しんできましたので花が大好きです」 「……君自身が花の様ですよね」 そう言って、鮎原君はしゃがんで花を眺めている僕の隣に並ぶ。 「本当ですか?僕、生まれ変わったら花になりたいのでその言葉、すごく嬉しいです」 「俺も散り際を知る花のように在りたいと思っています」 同じだ。 この人は僕と同じなんだ。 こんなに涼しげな目をして、同じ思いを持っているなんて。 それは僕にとって、他人と話をして初めて嬉しいと感じた瞬間だった。

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