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第4話

それから、僕は花壇で鮎原君と落ち合うようになり、親しくなっていった。 「岩浪君、向こうにガクアジサイが咲いているところを見つけたから、見に行かないかな」 「うん、喜んで」 鮎原君は走る鍛錬をするふりをして、運動場の奥にある緑で覆われた場所に連れて行ってくれた。 「わぁ……!」 そこには青紫と紫のガクアジサイが大量に咲いていた。 「ホンアジサイも好きだけど、ガクアジサイの方が趣があって俺は好きなんだ」 「その気持ち、分かるよ。花言葉もホンアジサイは色によるんだけど良い言葉は少なくて、ガクアジサイはその姿みたいに『謙虚』という事になっているよね」 「岩浪君は花言葉にすごく精通しているな。俺も好きだから知っている方だと思っていたけど、君には敵わないよ」 「そうかな……」 木陰に座ってアジサイを眺めながら、時が過ぎていくのも忘れて花の話をする。 夢のような時間だった。 「ベニガクアジサイも見たかったね」 「そうだね」 僕に見せてくれる屈託のない笑顔。 まるで花車(はなぐるま)の様だ。 「今日も楽しい時間をありがとう」 「こちらこそ。君と話しているとあっという間に時間が過ぎるよ」 いつかは別れる運命。 分かっていても、僕は鮎原君に惹かれていく自分がいるのを感じていた。 「探したよ、岩浪君」 「……鷹島君……」 鮎原君との別れ際、そこに、同じ部屋で寝ている同期の鷹島貞二(たかしま ていじ)君が現れる。 「じゃあ、また明日会えたら花壇で」 「うん……さよなら……」 鮎原君は何も聞かず、その場を立ち去る。 「今の人は誰?」 鮎原君がいなくなると、鷹島君が僕を抱き寄せてくる。 「……同期の鮎原君」 「彼奴も君の相手なのかい?」 耳元で囁くと、鷹島君は僕の臀を撫でてきた。 「違うけど……」 鷹島君の呼吸が荒い。 その昂りを抑えられなくて、僕を探しに来たのだろう。 「君にそんな純粋な関係の存在がいるなんて驚いたよ」 「…………」 鷹島君が揶揄うように笑う。 同期の中でも優秀で上官からも一目置かれる存在の鷹島君は、上官以上に僕を求めてくる。 僕に好意を寄せてくれているらしいけれど、僕にとっては上官と同じ、何の感情も持たない相手だった。

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