6 / 50
第6話
「戦局、悪化していく一方の様だね」
「特別攻撃隊が作られた時点でかなり悪かったんじゃないかな……」
今日もまた、鮎原君に会う事が出来た。
「人の生命そのものを武器にするくらい、この国には余裕がないという事なんだろうね……」
「……でも、そのお陰で僕の願いは叶うから、僕にとっては良い事なんだ……」
昨日連れて来てもらった場所に今日も連れて来てもらい、話をする。
「……何を背負っているの?」
「えっ」
「前から思っていたんだ、君のその花の様な美しさは何か重荷を背負っているからなんじゃないかって」
今日の鮎原君は何かが違っていた。
「俺じゃ力になれないのかな」
「…………」
今まで見たことのない顔つき。
なんだか苦しそうに見えた。
「大丈夫だよ。気にかけてくれてありがとう……」
僕は内心戸惑いながら、この話題を終わらせようとした。
「違うよね。俺には君が何かを押し殺しているように見える。君が望まない事をしなければならない状況で苦しんでいるように見えるんだ」
「……!!」
突然、鮎原君に両肩を掴まれ、そのまっすぐな澄んだ瞳で見つめられる。
僕はどうしていいか分からなかった。
……知っているんだ。
軍人なのにひとりだけ長髪を許されているのだから、どこからか話を聞いていてもおかしくはない。
鮎原君は今までずっと、僕の事を知っている上で僕と話をしてくれていたに違いない。
「君にとって俺は花の話が出来るという存在という事だけなのかもしれないが、俺にとって君はここで見つけた唯一の心安らぐ存在だよ、岩浪君」
鮎原君がその額を僕のそれに重ねてくる。
「それは……僕も同じだよ、鮎原君」
僕は初めて自分の感情を口に出していた。
「……嬉しいよ、気高く美しい君にそう思ってもらえているなんて……」
「まさか。僕は汚れきった人間だよ。気高く美しいのは君の方……」
鮎原君がその唇で話している途中だった僕の唇を塞ぐ。
「……何度でも言うよ。君は汚れてなんかいない。気高く美しい、花車が似合う人だ」
「鮎原君……」
それは君だよ、鮎原君。
そう言おうとしたのに、涙が溢れ出て止まらなかった。
そんな僕を、鮎原君は黙って優しく抱き締めてくれた。
ともだちにシェアしよう!