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第15話

イベリスさんの隣の部屋を自由に使っていいと与えられた僕。 部屋には縁側のような場所が外にあり、僕はそこに足を踏み入れていた。 「…………」 目の前に広がるのは山や草原だけ。 明るくなったら花を探しに行ってみたい、と僕は思った。 「……あ……!!」 辺りを見回していると、良い香りが漂っている事に気づく。 その香りの方へと歩いていくと、月下美人の花が咲いているのを見つけた。 「綺麗……」 図鑑でしか見た事のない、白く美しい花。 ずっと見てみたいと思っていた花に出会えて、僕は興奮を抑えられなかった。 それと同時に、この花を一緒に見たかった人の事を思い出してしまう。 「……鮎原君……」 どうして僕はこんなところに来てしまったんだろう。 君と一緒に死ぬはずだったのに。 『何をしている』 花を見ているうちに涙が溢れて止まらなくなっていると、ユープさんに似た声がした。 「え……?」 声のする方を見ると、月の光を浴びて白く輝く大きな狼がいた。 ……今の声、この生き物が……? 『勝手に外に出るな。この辺りは安全だが、お前はどこからが危険な場所か知らないだろう』 「あ……あの……」 僕は慌てて涙を拭う。 言葉を話す狼。 そして、その声がハッキリ聞こえる僕。 この世界は、人と動物とが言葉を交わしあえるものなのか。 『……済まん、お前は何も知らないんだったな。俺だ、ユープだ』 「ユープ……さん……?」 同じ青色の瞳。 その瞳の中に、僕の姿が映っている。 『俺の種族、ウォルフ族は昼間は人間、夜は狼の姿をしている。お前の世界には俺の様な種族はいない様だな』 「は、はい。そういう物語は幾つかありますけど、実際にはいません」 『そうか……』 そう話したユープさんが、どこか寂しそうに見えた。 『お前、花が好きなのか』 「はい、大好きです。この花は図鑑でしか見た事がなかったのでもっと近くで見たくて、つい外に出てしまいました」 僕はユープさんに正直な気持ちを話してしまっていた。 『……もっと見たいか?安全な場所で花がたくさん咲いている所を知っている。明日の朝、見廻りついでに連れていってやろう』 「えっ、いいんですか?」 思いもしなかった言葉にびっくりして聞き返してしまう。 『あぁ、但し条件がある。お前の銃の腕前を俺に見せる、という事を約束してくれたらの話だ』 「わ……分かりました」 と返答してしまったけれど、僕は全く自信がなかった。

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