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第17話
それから僕は日が沈むまでその場所にいさせてもらい、咲いている花々を眺めさせてもらっていた。
ユープさんはそんな僕に何も言わず、ただ黙って傍にいてくれた。
「今日はありがとうございました。たくさんの花を見られて嬉しかったです」
「礼には及ばない。俺も花を眺めるのは好きだ」
「そう……なんですか……」
日が沈んでいくと、ユープさんの姿が変わっていく。
『俺は夜の間は砦には入らない事にしている。また明日にでも見廻りをしながら花を見に行こう』
「あの……どうして砦に入らない事にしいるんですか?」
僕は狼の姿になったユープさんに尋ねていた。
『……この姿の時はひとりでいたいからだ』
そう言って、月の光の中に溶けていくように、ユープさんはいなくなってしまった。
「ジュン、今日はずっと外にいたのか」
砦にひとりで戻ると、イベリスさんがすぐに駆け寄ってくる。
「はい、ユープさんと見廻りをしていました」
「そうか。早速我が軍の一員として働いてくれているのだな、感謝する」
「…………」
僕の手をとり、跪いて接吻するイベリスさん。
「宴の準備をしている。部屋に着替えを用意したからそれに着替えて食堂に来い」
「分かりました」
僕は言われた通り、部屋に戻って用意された細かい刺繍が施された白い服と黒いズボンに着替え、食堂に向かった。
そこには大勢の人たちが集まり、テーブルには料理が並んでいた。
僕の席はイベリスさんの隣に決まっていて、向かい側にはロブレヒトさんの姿もあった。
「ジュン、よく似合ってるぞ」
「えぇ、キミには白がよく似合いマス」
「ありがとうございます」
イベリスさんが皆さんの前で僕を紹介し、その音頭で乾杯する。
「ロブレヒトさま、このお方が異世界から来られた方ですか?」
ロブレヒトさんの隣に座っている、まだ声変わりもしていない少年が僕を見ると尋ねてきた。
金色の髪をひとつに纏めた彼は、どう見ても10代前半にしか見えなかった。
「えぇ、名前が長いのでジュンという名にしてもらいマシタ。ジュン、この子は私の妻のアリー。普段は私の助手を務めているんですヨ」
「つ、妻!?」
「初めまして、ジュン様。アリーと申します。以後お見知りおきを」
僕が驚いていると、アリーと呼ばれた少年は深々と頭を下げる。
「この世界では12で結婚するのが通例でな。アリーも去年12で結婚したのだ」
「そうなんですか……」
まるで古の日本の様だ。
イベリスさんの言葉に、僕はそう思った。
「夫の方が年上、という事も珍しくなくてな。ロブレヒトは20、俺も10離れている」
「はぁ……」
「ジュン様はお幾つですか?ご結婚は?」
屈託の無い笑みを浮かべながら尋ねてくるアリーさん。
「僕は22です。結婚はしていませんでしたが……愛した人はいました……」
ポケットの中のしおりに触れながら僕は言った。
「そうだったんですね!じゃあその人に会えなくなって寂しいですね」
「……えぇ、でも、その人はもう2度と会えない場所に逝ってしまっているので……」
声が震えた。
アリーさんの笑顔がだんだん曇っていく。
「……ごめんなさい。知らなかったとはいえ、悲しい思いをさせてしまって」
「いえ、大丈夫です……」
「ぼくも2年前に両親をこの戦いで亡くしたので大切な人を失った悲しみは知っています。お辛いとは思いますが、この先きっといい事がありますよ」
「……ありがとうございます……」
こんなにも歳若いのに、両親を亡くしているなんて。
それでもこうして明るく笑えるアリーさんに、僕は感服していた。
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