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第24話
ユープさんと朝食をとると、僕はすぐに見廻りに出かけた。
「少し危険な地域だが、花が多く咲いている場所を見つけた。見廻りついでに立ち寄らないか?」
「……はい……」
そこは、待雪草に似た白い花が沢山咲いている場所だった。
「綺麗……」
こんなにも数多く咲いているのを見たのは初めてで、僕はその美しさに感動する。
「ギャラントという花なんだが、俺はこの花が好きだ。この世界では希望のシンボルとして知られている」
「そうですか……」
待雪草の花言葉と同じだ、と僕は思った。
「……死に急ぐな。お前が2度も死ななかったのには必ず意味があると俺は思う」
呟くように言うユープさん。
その大きな手が僕の背中を優しく撫でてくれる。
「意味……?人を狂わせる事しか出来ないこの僕に、どんな意味が……?」
それなのに、僕は涙と共に込み上げてくる感情を抑えられなかった。
「知ってますよね?僕の事。イベリスさんの妾になって、愛してもいないのに抱かれているんですよ。その上愛していた人との間に子供がいた事も知らずにいて、その子を殺してしまって……」
泣きじゃくる僕を、ユープさんの手と同じように大きくて逞しい身体が包み込む。
「だったら何だ。俺にはそんな事どうだっていい。……ただお前に死んで欲しくない、それだけだ」
僕の頭を優しく撫でる手が、その温もりが、どこまでも温かく優しく感じられた。
「ユープ……さん……」
何も聞かずにただ受け止めてくれるユープさんに、僕は鮎原君の姿を重ねてしまった。
「…………」
僕が刺青の入った頬に触れると、その大きな瞳が僕を見る。
紺碧の澄んだ瞳。
その綺麗な瞳の中の僕が近づいてくるのを、僕はそのまま見つめていた。
やがて。
その唇が僕のと重なり、僕は目を閉じたユープさんの顔を見ていた。
「……済まない。苦しんでいるお前を見ていて感情が抑えられなかった……」
慌てて僕から離れようとするユープさん。
「謝らないで下さい……」
それを、僕はその太く逞しい腕を掴んで止めていた。
「もう少し……もう少しだけ、このままでいさせて下さい……」
今はこの人の優しさに縋りたかった。
「……分かった……」
何も聞かず、言わず、ユープさんはただ僕を抱き締め続けてくれた。
鮎原君の事を決して忘れた訳ではなかった。
けれど、この時を境に僕にとってユープさんの存在は大切な、かけがえのないものに変わっていった。
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