26 / 50
第26話
翌朝。
まだ日が登らないうちに、僕は外に出て昨日の待雪草に似た花が咲いている場所に向かった。
そこに行けばユープさんに会える気がしたからだ。
花が咲いているのを見渡せる丘の大きな樹の下で、ユープさんは狼の姿で眠っていた。
「ユープさん……」
僕はその傍に寄り添っていた。
綺麗な白銀の毛並みを撫でると、手にはその温もりが感じられる。
抱き締められた時とは違う心地良さは、僕の心を穏やかなものにしてくれた。
『……ジュンか……』
「ごめんなさい、起こしてしまいましたよね」
『気にするな。お前の手が心地良くてまた眠ってしまいそうだ』
そう言うと、ユープさんが僕に鼻を擦り寄せてくる。
「僕も……ユープさんがあったかくて眠ってしまいそうです」
その鼻に、僕は顔を近づけていた。
『……このまま少しだけ休もうか』
「はい……」
日が登るまでの間、僕はユープさんとそんな穏やかな時を過ごす事が出来た。
気がついた時、ユープさんは人間の姿になっていた。
僕を抱き締めながら眠っているその寝顔を見ていると、愛おしさが募ってくる。
僕の過去も今の現状も一切何も言わず受け止めてくれて、死に急ぐ僕を生かそうとしてくれるユープさん。
この人の為に生きたい。
そう思ってしまった。
ともだちにシェアしよう!