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第29話

「……どうした?アリー」 そこに、イベリスさんがやって来て、僕の隣に座る。 「イベリス様……」 アリーさんは僕に話したのと同じ事をイベリスさんに話した。 「ハハハ、お前は本当にロブレヒトを愛しているのだな。案ずる事はない、彼奴はお前が好きで好きで堪らないからこそお前との子を望んでいないのだ」 「でも……」 「お前にはまだ分からないかもしれんな。子を成す事だけが愛ではない。むしろ子など出来たらふたりの時間がなくなってしまう。俺は長年ロブレヒトを見ているから分かる、彼奴が長らく独り身だったのもアリー、お前をずっと想っていたからだぞ」 見えないところで僕の腰に手を回しながら話すイベリスさん。 その言葉に、アリーさんは信じられないと言いたそうな顔をしていた。 「ロブレヒトさまが……ぼくの事を……」 「あぁ、間違いない。お前の両親の手前、ずっとその想いを秘めていたのだろう。だからこそお前の両親が亡くなってすぐにお前と結婚したんだ。それでも納得出来ないのなら……自ら脚を開いてロブレヒトを誘ってみろ。愛するお前に迫られたら彼奴もその箍を外すかもしれん」 「そんな……そんなはしたない事をしてロブレヒトさまに嫌われないでしょうか……」 「さぁな。だが、愛する者に誘われて断らない男などいないと思うがな」 アリーさんを揶揄うように話しながら、イベリスさんの手は僕の腰から内股に移動していた。 「ジュン様はどう思いますか?ジュン様はどのように愛する方と結ばれたのですか?」 「え……僕……?」 アリーさんは自分の事で精一杯なのか、僕が鮎原君と死に別れた事を忘れているとしか思えない事を聞いてくる。 僕はイベリスさんに脚を撫でられながら、どう話すべきか考えていた。 「僕は……もう逢えなくなるから、その前に……という状況でした……」 それ以上、上手く説明出来なかった。 「最初で最期の事だったのか……」 「ご……ごめんなさい、辛い事を思い出させてしまって……」 「……いえ、大丈夫です」 イベリスさんの言葉も、アリーさんの謝罪も、僕は聞き流していた。

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