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第35話
そこに、敵が攻めて来たという連絡が入り、僕たちは戦線に向かう事になった。
『王太子のサンデルが自ら軍を率いて攻めてきた』
それはローツ軍にとって、これを倒せば独立へ大きく前進出来るという事だとイベリスさんはみんなに言い、ユープも僕も最前線に赴くように命じてきた。
「お前たちの処遇はこの戦いが終わるまで保留とする。今は独立の為に力を尽くせ」
「ははっ」
「はいっ」
僕は夜闇に乗じて敵の本拠地を目指し、単独で行動していた。
『ジュンイチ、決して無理はするな』
『大丈夫だよ、ユープ。僕……貴方の為に絶対に死なないって決めたから。だからユープ、貴方も絶対死なないって約束して』
『あぁ、約束する』
別方向から敵を攻撃する事になったユープとそんな言葉を交わして別れた僕。
刀としおりを銃と共に持つと、草むらに隠れながら本拠地へと進んでいく。
鮎原君。
君の傍に逝けなくなってしまってごめんなさい。
僕は出逢ってしまったんだ。
この命を散らすんじゃなくて、一緒に生きようとしてくれる大切な人に。
僕は……この世界でその人と、その人の子供と一緒に生きていくよ。
……ごめんなさい……。
何とか見つからずに本拠地までたどり着いた僕は、木陰から内部の様子を伺っていた。
「殿下、敵はゲリラ部隊もおり、単独でこちらに向かっている者もいる様です」
「……そうか」
「…………!!」
たった一言。
けれど聞き覚えのある澄んだ低い声に、僕は息を呑む。
「向こうは命懸けでこちらに向かっているという事だ。単独でも侮るな」
「はっ」
『綺麗に咲きましたね。俺、毎日この花壇の花が咲くのを心待ちにしていたんです』
間違いない、あの声だ。
どうして……どうして……?
僕はその顔を見ようと、胸を高鳴らせながら歩みを進めてしまった。
「……何者だ」
「!!!」
前に出過ぎてしまった僕は、その声の主に見つかってしまう。
「待て!!!」
慌ててその場から走り出す。
ユープと同じ銀色の短髪に灰色の瞳。
僕の知るその人よりも大きく見えた背丈。
銀色の鎧を身にまとったその人の端正な顔立ちは…………鮎原君そっくりだった。
「はぁ……っ、はぁ……っ」
僕はいつしか、泣きながら走っていた。
『初めまして、鮎原士郎です。実家が造園業を営んでいて、幼い頃から植物に囲まれて過ごしてきたので花が好きなんですよ』
忘れようとしたのに。
新しい自分になろうって思ったのに。
それなのに……。
「動くな、もう逃がさないぞ」
「うぅ……っ!!」
僕はその人に追いつかれ、地面に身体を倒されていた。
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