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第36話《悲しき出逢い》
「ローツ軍の者だな」
頭から被っていた黒いマントを奪われ、顔を晒される。
「な……女……!?」
あぁ、あぁ、その声、その顔。
僕の心の中にずっとずっといた、鮎原君と同じだ。
「こんな身体で戦っていたのか……」
「…………っ……」
僕の身体を見たのだろう、鮎原君そっくりのその人は言った。
僕を労るように話す声に、涙が溢れた。
「殿下、お怪我は?」
「大事無い。それよりもこの者の身体が気がかりだ。私はこの者を連れて城へ戻る」
「お待ち下さい、殿下。その者は女でもローツの軍人ですぞ。この場で殺してしまう方が……」
「お主、王太子であるこの私に指図するのか?」
「い、いえ……」
家臣に冷たい目を向けた後、その人は僕を抱き上げて先程の場所まで歩いていくと、そこから馬車に乗って戦線とは反対方向に向かっていく。
「私はズワルツ王国王太子、サンデルだ。お主の名は?」
「…………」
この人がサンデルなんだ。
鮎原君そっくりのこの人が、ローツの人たちの敵だなんて。
それに……イベリスさんの時と同じで、この人もただ鮎原君に似ているだけなんだろう。
でも、分かっていても、僕はすぐには受け入れられなかった。
「安心しろ、私は子を抱える者を殺める事など考えていない……」
「…………」
僕のお腹に触れると、サンデルは僕を抱き締めてくる。
『……君自身が花の様ですよね』
鮎原君の声が聞こえてくる。
「……して……」
「……どうした?」
「殺して、僕を殺して下さい、僕に情けなどかけないで……」
僕はそこから逃げようとした。
けれど、その逞しい腕は僕を決して離してはくれなかった。
「これから子を産もうとする女を殺すなど出来ないと話したばかりだろう。お主は捕虜として私の傍に置く事とする」
優しい声。
頭の中で何度も思い浮かべた声。
僕の思考はその声でここに来る前のものに戻っていってしまう。
「名を名乗りたくないのならば私がお主の名を決めよう。お主の名は私の好きな花の名から取ってステアとする」
花……??
鮎原君と同じように、この人も花が好きなのかな。
「お主、ステアを知らない様だな」
「は……はい……」
「城へ戻ったらお主を医師に診せる。問題がなければその花を見に行こう」
「…………」
優しく微笑むその顔に、僕は鮎原君を重ねてしまった。
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