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第38話
サンデルは僕の手を引いて、城内にある硝子で覆われた大きな建物まで連れて来てくれた。
「ここは私とコーバスが管理する庭だ。ここで花や薬草を育てている」
「……わぁ……!!」
硝子越しから見ても沢山の花が咲いているのが見えたけれど、中に入るとその美しさと香りに思わず声が出てしまう。
照明で照らされ昼間と変わりないそこは、蝶などの虫も飛び交い、とても綺麗でいつまでもいられそうな場所だった。
「お主も花が好きなのだな。そんな目をしている」
「…………」
そう話して僕を見つめる、色は少し違うけれど鮎原君と同じ涼しげな目。
「これがステアだ。星のような形とこの青い色が美しいだろう?」
サンデルが僕に見せてくれたそれは、瑠璃唐綿(るりとうわた)の様な花だった。
「私は小さくても存在感のあるこの青が可憐で好きなのだ」
「……信じあう心……」
僕はその花言葉を口にしていた。
「僕が住んでいた所では花のひとつひとつに意味が込められているとされていて、この花は信じあう心、幸福な愛という意味があるとされていました」
鮎原君といた時の様に、僕はサンデルに話をしてしまう。
「そうなのか。お主、花についてかなりの知識を持っているのだな」
『岩浪君は花言葉にすごく精通しているな。俺も好きだから知っている方だと思っていたけど、君には敵わないよ』
あの時と同じ声と顔。
僕はまた、涙が出てしまった。
「どうした?傷が痛むのか?」
「いえ……」
「…………」
俯く僕を、サンデルは抱き締めてくる。
「済まないな。私の思いだけでお主を愛する者から引き離す事になってしまって」
その優しさまで鮎原君みたいで、僕はどうしていいのか分からなくなった。
「ステア、私は必ずこの戦いを終わらせる。お主を愛するユープ隊長の元にも今すぐには難しいが必ず返す。故にそれまで私の傍にいて辛抱して欲しい」
「…………」
その手が、その綺麗な長い指が僕の涙を拭う。
「……分かりました……」
ユープ。
僕は……僕は貴方を裏切ってしまいそうだ。
僕のお腹に貴方の子をふたりも身篭っている事が分かったのに、かつて愛した人とほぼそっくりそのままの人に出会ってしまって、その人の事ばかり考えてしまう。
そんな僕でも、貴方はまた優しく包み込んでくれるだろうか。
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