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第43話

話し終えると、コーバスは怪我人の手当に当たる為に離席し、僕はサンデルとそのまま庭にいた。 「ステア、お主はどんな花が好きなんだ?」 「何でも好きですが、強いて言うなら……アジサイという花が好きです」 サンデルに聞かれ、僕は鮎原君との思い出の花の名を挙げていた。 「そうか。……この庭にも咲いているといいのだが……」 サンデルと並んで歩きながら探していると、奥の木陰になっているところに背の高い、白と緑の西洋アジサイが咲いているのを見つけた。 「あれです」 「そうか、アジサイとはホテンシアの事だったのか」 サンデルはそう言って嬉しそうにアジサイを眺める。 「僕が好きなのは中心に小さな花びらがたくさんあるガクアジサイなんですが、このアジサイも好きです」 「母上もこの花が好きだった。今咲いているホテンシアは、母上が育てていたものを植えたのだ」 涼やかな笑顔なのに、どこか寂しそうに見える横顔。 「白と緑のアジサイには、ひたむきな愛という意味が込められている……と僕の住んでいた場所で言われていました」 「そうなのか。……母上もひたむきに、私を深く愛してくれた。故郷から、家族から自分を引き離した憎い男の血を引くこの私を生きる希望だといつも言ってくれた……」 その眼に涙が薄ら滲んだのを僕は見た。 それを見ていられなくて、僕はサンデルに抱きついてしまう。 「ステア……」 「貴方が辛そうにしているのを見ると、僕も胸が苦しくなります……」 その広い背中に手を伸ばして目を閉じると、鮎原君と抱き合っているような錯覚に陥ってしまった。 「……お主は優しいな。こんな……血に塗れた私を気遣うなど……」 僕の背に手を伸ばすサンデル。 その身体は微かに震えていた。

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