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第44話

休戦状態から3ヶ月。 その間に僕の髪はウォルフ族の子供を身篭った事によりユープやサンデルの様に銀色になり、お腹は更に膨らんで今月中には産まれるとコーバスから言われていた。 サンデルの傍にいた僕は度々サンデルの命を狙う者に遭遇し、その度に相手を殺害するかサンデルに助けてもらっていた。 それ以外はあの庭でサンデルやコーバスと花を眺める穏やかな日々を過ごしていた僕のところに、ローツ軍が動き出したという報せが舞い込んできた。 「……遂にこの時が来たか。コーバス、頼んだぞ」 「……分かりました……」 ズワルツの軍もいつでも戦闘可能な状態だった。 そんな中、コーバスは誰よりも早く城を離れる事になっていて、深夜、ひっそりと城を抜け出すコーバスを、僕はサンデルと共に見送る事になった。 「コーバス、死ぬなよ。お主が死んでしまえば我々の願いは叶わないからな」 「はい、必ず生きてローツに辿り着き、ここに戻って参ります。サンデル、アナタと共に過ごしたこの日々を、そして真っ直ぐで心優しいアナタをわたしは一生忘れません……」 「……ありがとう、コーバス……」 抱擁を交わすと、コーバスは泣きながら城を後にした。 ……一体どういう事なんだろう。 戻って来ると言っていたのに、まるでサンデルとはもう2度と会えなくなるようなやり取りに見えた。 ローツ軍との戦いの為、進軍を始めて5日。 この城にユープが率いるオランイェ隊が向かっているとの情報が入った。 翌朝には近くまで来る可能性が高いという事で、サンデルは城門の前に城に残っていた軍人たちを配置していた。 「お主と過ごすのも今日で最後だな」 「…………」 いつもの様に庭で過ごしていると、サンデルは言った。 「コーバスが先に出ていったのは、ローツに亡命し、お主の居場所をユープ隊長に伝える為だ。ここにいる者たちにはこれからその事を話し、ローツに亡命するかズワルツに戻るかそれぞれの判断に任せる旨を伝えようと思う」 「貴方はどうされるのですか?」 「私はここで死ぬ。私が死ねば跡継ぎのいないズワルツ内は混乱し、ローツとの戦いどころではなくなる。その混乱のうちにローツが独立出来るよう、もう手筈は整えてある」 「……!!」 落ち着いた口調で語るサンデル。 その瞳は、最期の夜の鮎原君のものに似ている気がした。 「ステア、お主に頼みがある。聞いてくれるか」 「…………」 彼の望みは、ここで僕とふたり、最期の夜を過ごす事だった。 その瞳に魅入られた僕は、サンデルの望みを叶える事にしていた。 城にいた僕以外の者たちが城からいなくなったのを確認すると、サンデルと僕は城内にある風呂に入り、再び庭に来ていた。 サンデルを慕う者たちは自らの死をもってこの戦いを終わらせようとしている姿に付き従いたいと口々に泣きながら話したが、サンデルはその者たちに生きてコーバスを支えて欲しいと語り、ローツへの亡命を促した。 一方でごく少数、恐らくサンデルの命を狙う者たちはサンデルに強く反対しただけでなくサンデルを殺そうと襲いかかってきて、それを予感していたサンデルは僕に事前に銃を持たせていた。 僕はサンデルと一緒に、そうした人達を全員撃ち殺していた。 「済まないな。大事な身体なのに汚してしまって……」 「いいえ、僕は元々汚れきっているので気になさらないで下さい。それよりも、貴方のお役に立てて良かったです」 サンデルと僕が風呂に入ったのは、その返り血を洗い流す為だった。 言葉を交わす事なく過ごしたその間、僕はある決意をしていた。 これが最期だと言うのなら、僕の全ての想いをこの人に伝えよう、と。

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