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第45話《今、一度の》

「あの、僕の話を聞いて頂けませんか?」 心を決めた僕は、サンデルに向かってこう言った。 「あぁ、構わない。話してくれ」 「はい……」 僕は、深呼吸すると話し始める。 「僕は、大日本帝国という所で生まれました。そこは大国と戦争をしていて、僕も軍人として戦って、戦死したと思ったらローツに辿り着いていました。僕は軍人でありながら男娼をさせられていましたが、たったひとり、愛した人がいました。僕と同じ軍人で同じ様に花が大好きな人でした……」 鮎原君の姿を思い浮かべながら話しているうちに、涙が溢れてくる。 「その人も戦いで死んでしまったと思っていたので、僕は彼の元に逝こうとしましたが、ユープに止められました。ユープは僕の過去を受け入れてくれただけじゃなく、ここに来てからイベリスさんに気に入られて妾にさせられても、実は愛した人との間に子供が出来ていたのに気づかずにいて死なせてしまっても、僕に優しくしてくれました。まるで僕が愛した人の様でした」 涙を拭いながら、僕は話し続けた。 そんな僕を、サンデルは黙って見つめていた。 「愛する人のところに逝きたい。そう思っていたから僕は戦いの最前線に赴きました。でも、ユープに惹かれていって、その想いを知ってから、僕はユープと一緒に生きたいと思うようになりました。それからすぐ、この子達を授かりました」 お腹を撫でると、子供達が反応したのか痛いくらい元気に動く。 「僕は子供の為にも愛した人の事を忘れようと決意しました。でも、僕は貴方に……僕が愛した人にそっくりの貴方に出会ってしまいました。貴方は容姿だけでなく性格も彼みたいで、僕は……こんな身体なのに昔の、彼を愛していた時の僕に戻っていました……」 僕は泣きながら、今までずっと大事に持っていたしおりをサンデルに見せた。 「これは僕が貰った最初で最期のプレゼントです。この花はクワというのですが、『共に死のう』という花言葉があって……」 持ち歩いていたせいでぼろぼろに近い状態になっていたしおり。 サンデルは僕の話を黙って聞いてくれた後、そのしおりを見て口元に笑みを浮かべた。 「あぁ、知ってる。こんなになるまで持っていてくれたんだね、岩浪君。でも……もうこれは君には必要のない物だ 」 「え……!?」 僕の手からそれを取って庭の灯りとして灯していたロウソクで燃やしてしまうサンデル。 その口調は鮎原君そのものだった。 「な……何で僕の名前を……?」 「ありがとう、岩浪君。俺の事、ずっと想っていてくれていたんだね。とても嬉しいよ」 僕が呆然としていると、サンデルはそう言って僕の涙を拭い、抱き締めてくる。 「鮎原君……君なの……?」 「あぁ、そうだよ。俺にもよく分からないけれど、特攻に失敗して海に堕ちて意識を失った後、サンデルとしてここにいたんだ。最初はどうしてこんな事にって思ったけれど、今は分かるよ。君ともう一度出逢う為だったんだって」 「鮎原君……」 頭を撫でてくれるサンデル……鮎原君の手が心地良い。 僕は胸がいっぱいになって、また泣いてしまっていた。

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