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第15話

「....早く帰って来ないかなあ....」 ベランダの手すりに掴まり、夜空を眺めていると、不意にタバコの匂いがした。 どうやら、先程、一緒にコンビニに行き、みかんをくれた男性もベランダにいるようだ。 「さっきぶり。君も眠れないの?」 「え、ああ、はい」 「ごめん、タバコ、大丈夫?」 「大丈夫です」 ベランダ越しに会話した。 「友達、帰って来てないの?」 「なんかバイト先の人と飲み行くとかで....」 「そっか、仲良いんだね」 晶は思わずドキッとした。 もしかして、付き合っていることを見透かされてる....? と、また、晶は警戒心に駆られた。 「....羨ましいな。社会人にもなるとさ、なかなかそんな友人もいないし、それに俺、地方出身で就職で上京したクチだから」 ああ、なるほど、と晶は安堵した。 互いにベランダ越しに自己紹介し合った。 お隣さんの男性は社会人二年目になる、23歳、橋口さんというらしい。 光を待つ晶のひたむきな思いも虚しく、光は1人、和典と格闘していた。 無理やりキスをされ、首筋や上半身にも舌が這う。 昔と違い、嫌悪感しか湧かなかった。 必死に和典を引き剥がす。 「和典にとって、俺と晶は何だったんだよ!」 光には思いがけない言葉がついて出た。 「お前が本命、あいつは浮気相手。あいつが邪魔で仕方なかった」 光は目を見開いた。 「....嘘だ....」 「ホントだよ」 その瞬間、光は思い切り、顔近くにあった和典の腕に噛み付いた。 「いって....!」 光はよろけそうになりながらも、必死に脱ぎ散らかされたTシャツを掴み、逃げるように和典の部屋を後にした。 Tシャツを着ながら人気のない夜道を歩き、光は未だ、呆然としていた。 晶が本命だと思っていた。 和典にとっては、本命は自分だったことを知った。 看板があれば蹴り上げたい衝動に駆られながら、フラフラと光は涙ぐみながら歩いた。

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