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第19話

「どちら様....」 ドアが開かれ、長身な橋口を見上げるなり、なだれ込むようにして、晶は橋口に抱きついた。 部屋着の橋口は小柄な晶に抱きつかれ、よろめきながらも驚愕の丸い目で晶を見下ろした。 「あ、晶くん...?」 「抱いてください!」 橋口を見上げ、懇願した。 「な、何を言ってるの...?」 「光じゃなきゃ、やっぱり駄目ですか!?」 「....光?」 橋口は首を傾げながら晶の両肩に手を置き、ゆっくり引き剥がす。 「....ちょっと冷静になろうか?上がって?晶くん」 促されるまま、晶はリビングに通された。 橋口に全てを打ち明けた。 とはいっても、光は全てを話した訳ではなく、晶の思い込みも混じっている。 たどたどしい晶の話しを聞き終わり、 「コーヒーでも煎れようか、待ってて」 ソファの反対側に座る橋口が口元に笑みを浮かべ、立ち上がる。キッチンで橋口がコーヒーを煎れているなか、晶は改めて、橋口の部屋を見渡した。 整頓された部屋のなか、幾つかのダンボールが目に入った。 「地元の母がよく色々と送ってくれてね。みかん、どうだった?」 コーヒーカップを手渡され、ありがとうございます、と、受け取った。 「美味しかったです、あ....」 「ん?」 「....光にみかんの話し、してなかった....食べたのかな....」 橋口が晶を見つめ、笑顔になった。 「なんだかんだ、光くんが気になって仕方ないんだね」 その瞬間、橋口に、抱いてください!と抱きついた、自分の行動を思い出し、遅ればせながら、羞恥が走った。 「あ、あ、あの、すみません...いきなり変なこと....」 「自暴自棄になってしまったんだね、僕がゲイではなくて良かったよ」 その通りだ、と晶は心から反省した。

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