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第21話

類は部屋の前に着くと、 『着いたよ』 と、晶にLINEを送った。 晶は即座に橋口にお詫びとお礼を言い、頭を下げた。 「早く仲直りしてね。2人を見かけると、こっちまで笑顔になるんだ、微笑ましくって」 橋口が光とぶつかり、特売でようやく買えた卵が割れ、悲嘆に暮れる光に、 『スーパーに行くし、あったら買ってきてあげようか?』 と、声を掛けた理由がわかった気がした。 「....はい!」 隣の部屋から出てきた晶に類は目を丸くした。 「あ、その、相談、乗ってもらってたんです」 「そっか。とりあえず...晶は隠れて見ててくれる?晶の前だと光、どうも本心を話さないから」 「....どういうことですか?」 「晶には心配かけまいと笑ってみせたり、無理するところがあるんだよ、光」 類の言葉に呆然とした。 光を完全に理解してあげていなかった自分に気づかされた。 類が部屋を開けると、リビングで膝を抱え丸くなり、泣きじゃくっている光の後ろ姿があった。 類は一旦、玄関に入り、晶はそこにいて、とこっそり耳打ちし、光に歩み寄った。 「光。なに泣いてんの」 「て、店長...?あ、晶は....」 「わからない....何があったか、最初から説明してくれる?」 ぐすん、と光が鼻を鳴らした。 涙で既にぐしゃぐしゃな顔、また両目から大粒の涙が込み上げた。 「晶に、す、捨てられました...っ」 「何があったか話して?光」 類は泣きじゃくり止まらない光の背中を優しく撫でた。 「か、和典がっ、会いに来たんです....晶の元彼の....」 うんうん、と頷きながら光の話しを聞きながら、類は懸命に光の小さな背中を摩った。 「晶に...っ、会わせる訳にいかないって...晶に会いに来たんだと...それに、俺たちの邪魔、されたくなくって」 初めて見る、光の泣きじゃくる姿を晶は秘かに見つめ、言葉を待った。

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