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市役所

「ほら、ゆうくん。名前と判子を押そうね」  カフェに行ったが状況は何も変わらなかった。手を引っ張り連れて行かれた先は市役所。近くにあった机の前でペンとどこからか持ってきた判子を手渡される。 (コレを書いたら、もう戻れないんじゃ……) 「ん? ゆうくん自分の名前忘れちゃった?」  ほら……と無理矢理ペンを握らせて俺の手の上から握る。  右側の空欄に『石田雄大』と手の力が入る事なく筆が走る。判子を汗ばむ俺の手に握らせ朱肉に付けて押した。 「完璧だね! 記念写真を撮ろう〜」  夏越は婚姻届を片手に俺と写真を撮った。無機質な音と共に俺の苦笑いが写り込む。 「ん〜?? ゆうくん表情固いよ〜」 「出す前に、ちょっと親に連絡していい?」 「うん? 親に結婚連絡するの」 「ほ、ほら婚姻届! 婚姻届書いてくれたし…お礼を言わないと!」 「ふふっ、ゆうくんはお母さんが大好きなんだね。お母さんの言う事何でも聞いちゃうんだから」  ……ゴクリ。思わず唾を飲み込んだ。それは突然引っ越した事を言っているのだろうか?  夏越の気が変わらない内にポッケからスマホを取り出して電話をかける前に、その場から離れようとすれば―― 「どこ行くの?」 「え? 電話をかけに」 「ここでいいでしょ?」 「いや、ここ室内だし周りに迷惑が……「なら僕も一緒に行く」 「え…?」 「ゆうくんは僕が傍にいたら不都合があんの?」  疑いの眼差しを向けられて、いやないよ、と言うしか無かった。

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