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市役所 2

「あ、もしもし母さん? 俺だけど」 『雄大? 良かった無事なのね!』 「え? どういう意味?」 『中学の時仲良くしてたあの子……夏越って子が急に家に来てそれで』 「ゆうくん、言う事決まってたでしょ? なんだった?」  電話越しでも聞こえるように声を荒げた夏越。その声が母親にも聞こえたのか様子が一変する。 『え、あんたの近くに夏越君いるの?』 「うん、どうしても付いてきたいって」 『昔は反対して悪かったわ、これからは夏越君に幸せにしてもらいなさい。予定が合わなくて結婚式には出られないけど、あなたのこれからの未来を祈ってる。結婚おめでとう』 「え? 母さん、待って! さっき言いかけてた事って何?」  通話が切れてしまった。 「終わった?」  笑顔で俺のスマホを取り上げる夏越。手に力が入らなくて呆気なく奪われてしまった。 「もう必要ないよね? かかってこないんだし」  夏越はスマホの電源を落として鞄にしまった。母親の慌てぶりようから取り返す気さえ起こらなくて、ただただ夏越が怖い。 「さぁ、婚姻届出しに行こう」  また、俺の手を握りしめて役所に戻ろうとする。だが俺はその手を引っ張り返した。  夏越は俺からそんな事をされると思わなかったのか不思議そうに見てくる。 「なぁ、夏越」 「ん、何?」 「俺の家族に何かしたの?」 「婚姻届の証人の欄書いてくださいってお願いしただけだよ?」 「母さんが俺らの仲を認めるはずがないだろ! 引っ越しまでしたんだから!! 何だよ、あの取り乱し方、お前が何かしたんだろ!!!」  そうだ、母さんが認めるはずがない。だって引っ越しまでして引き離したのだから。 「ん〜気が変わったんじゃない?」 「そんなはずは「あーあ、昔のゆうくんなら喜んで出してくれたんだろうな。会えなかった三年間。あの女に毒されたんだ僕のゆうくんを。じゃないと、こんなのゆうくん言わないもん。こんな手は使いたく無かったけど、ここで時間をかけるわけにはいかないよね。早く元のゆうくんに戻してあげないと……」  ブツブツと何かを言い出した夏越が懐から取り出したのは小型のナイフ。 「夏越?」 「ごめんね、ゆうくん。死にたく無かったら僕の言う通りに動いてね? じゃないと心中するから」  腰に当てられたナイフが服を切り裂く。肌に直接感じるナイフが冷たい。

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