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第12話

「こんな時にまさか熱とか本当に駄目なやつだな」 「欠席だなんて失礼にならないかしら」 「いない方が逆に良いんじゃないの」 「あの子がいると安心できないもんね」 「暗いし声も小さいし一緒に居るのが恥ずかしいよ」 「コミュ障が身内とか最悪だわ」 「いい加減にしろ。これから会食なんだから。テンション下がる話はやめてくれ」 兄の言葉で会話は別の方向へ向かう。 決して庇われたわけではない。 その場にいない人間を嘲る事を良しとしない、そんな理由で止めたわけではない。 単に、何をしても駄目で苛立つ人間だから。 そんな人間の話は不愉快に過ぎない。 ゴキブリの生態を好んで聞きたがる人間はいない。 それと同じだ。 「客の前ではアイツの事は絶対言うな。聞かれてもいらない事は言うなよ」 自分は居ない方が良い人間なのだろう。 「流石に言わないよ。恥ずかしいもん」 ――全部本当のことだ。 頬が濡れている事に気付き、乱暴に拭う。 何度拭っても収まらない涙を袖に含ませる。 どうしようもなくて、鉛を飲み込んだ気持ちを抱えて階段に座り込んだ。

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