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第5話

泣きたい気持ちになる。 裏庭なら、誰にも会わないと思ったのに。 早く、ここから立ち去らなければ。 「園路の花も見事でしたが、こちらも主庭に劣らぬ立派な桜樹ですね」 若い男と父よりも年配だろう男が笑顔で花を見上げ、皆が同様に視線を上げている。 園路から裏庭の入り口に居る彼らは、無様に転がる自分にはまだ気づかない。彼らは通路端の真向いの桜に夢中だ。 しかし、視線が横にずれたら。裏庭全体に向かえば、見つかってしまう。 今なら何とか気づかれずに逃げる事が出来る。 最後のチャンスだ。

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