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第8話
「おや、逃げてしまった。錦様の仰る通りメジロでしたな。――ん? おや? あちらの方は?」
口髭を蓄えた年配の男がにこやかな目元のまま父に問う。
父は笑顔のままこちらを見てそして固まった。
家族たちの視線が集まる。
一様に笑顔を浮かべていた彼らは父と同様に、硬直し直ぐに笑顔の名残は跡形も無く消えて、唖然とした表情や困惑が入り交じる。
此処にいる筈の無い子供がいるのだ。
皆の表情が非難と驚愕に完全に変わり、我に返る。
少年の表情だけは変わらなかった。
「何をしている!」
父の厳しい声を聞き、もう駄目だと思った。
先程の和やかな空気が一変した。
鬼の形相をした両親、困った様な眼をする付き添いの男。
「お見苦しい所をお目にかけました」
兄が頭を下げ「お客様の前ですよ。錦様も驚いていらっしゃる」と父と母を宥める。
表情を変えぬまま少年は視線をそらし兄を一瞥した。
「その様な恰好で出歩いて、風邪を引いてはいけないから早く部屋に入りなさい」
兄の声は何時もと違い柔らかいが、眼が恐ろしく冷たい。
明らかに怒っている。早く立ち去れと言わんばかりの表情だ。
客の前だから、これ以上の醜態は晒せない。
恥をかかず穏便に済ませたいのだろう。
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