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第10話

――怖い。 恐怖に歯の根が合わず震える。 自分以外の家族が謝罪している中、原因を作った張本人が逃げても良いのか。 かと言い、彼らの元に駆け寄る訳にもいかない。 熱が上ったのか、頭の芯が痺れぼうっとする。 気が付けばへなへなとその場に崩れ落ちていた。 座り込んだまま、視線は茫然と空を彷徨う。 桜が揺れている。 意識せずともハラハラと乾いた頬を温かな涙が濡らす。 ――あの子は他の兄弟と違い、大変出来が悪く何をしても人並み以下の結果しか出せません。我々も頭を抱えるばかりなのです。 今日もあのような恰好で錦様の目の前に現れて――。 全く秋庭家の恥としか言いようがありません。 あの愚鈍ぶりをみれば、何の役にも立たぬことはお解りでしょう。 どうぞ、錦様――アレの事はお忘れ下さい。 父が必死に取り繕う。 「お気になさらないでください」 幼く初々しい声がする。 少年が口を開かなければなお父の言い訳は続いただろう。 慌てて口を閉ざし、何とも情けない笑みを見せる。 「いえ、そんな事は」 言い訳が続く母の傍らでハンカチで額を拭いながらおろおろとする父と、直立不動の兄。 兄は静かに二人を見ている。 「これ以上謝罪は不要です」 突き放す様な響きを持つあどけない声に、水を打ったかのようにざわめきが止る。 「し、しかし、と、とんだ、ご無礼を」 「何が無礼なのですか?」 「あ、あの様な見苦しい姿をお目に掛け、さぞご不快な思いをされた事でしょう。お詫びの言葉もございません」 そうして、此方を見やる父は威厳の欠片も無い。

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