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第12話

「錦様、いささか口が過ぎるのでは。家庭には其々教育方針というものがございます。そのように目上の方に恥をかかせるのは感心できませんよ」 父たちに助け舟を出したのは、まだ年若い方の従者だ。 諫められた少年は溜息まじりに「論点がずれている」と返す。 「接待中の不手際に対する謝罪は問題はありません。ただ、私に謝罪をする名目で目の前で子供を鞭打つ。その事こそが、礼儀より外れていると言っている。客の前で子供を罵る事が体裁を守る為の振る舞いなら、見苦しいことこの上ない。教育方針以前に心根の問題。ただ遊びに来ただけなら態々口など出しません」 「錦様、いくら何でも口が過ぎます。お謝りなさい」 「申し訳ないと思うなら、貴方が謝れ。しかしその謝罪は私の代わりではなく、あなた自身が彼らに申し訳ないと感じたと言う事が前提です」 誰もが皆幼い少年に完全に気圧されていた。 静まり返ったところで、ついに兄が耐えられないと言う風に噴き出して笑った。ぎょっとした母が兄の名を呼び咎める。 父も唖然としている。 まさか、最も優秀な長男がこのように場の空気を読まず声を出して笑うなど想像も出来なかったはずだ。

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