グレーのスーツに磨き上げられた革靴。 きっちりと締められたネクタイ。 子供らしい華奢な体。 細い首の上に小さな顔。 人形のように整った容姿。 音も無く体重を感じさせない優雅な足取りは猫の様だ。 光沢のある黒髪に花弁が触れる。 風を受けて、さらりと動く髪から花弁が落ちた。 一連の動きが綺麗で釘付けになる。 目の前で足を止めた少年はすっと右手を差し伸べた。 「立てますか？」 手を引っ込める気配が無いので、そろそろと土で汚れた手を伸ばし戸惑う。擦りむき汚れた手。爪にまで土と血が入り込み余りにも汚らしい。 少年の、傷一つない白い手に触れる事に罪悪感を感じた。 伸ばした指を丸め引込めようとすれば、手首を軽く掴まれる。 少年は左手でハンカチを広げて傷付き血を流す掌を包んだ。 指先まで綺麗に包み込まれハンカチ越しに優しく加えられる力が心地良い。布越しに感じた温かさと、両手で包み込む柔らかな仕草に瞠目する。 こんな風に誰かに優しくされたのは初めてだった。