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第1話
「風邪を引きます。そのままの方が楽ならそのままでも構いませんが、立てるなら立って」
手を引かれ、その非力さに驚く。
周囲を圧した少年の物とは思えぬ華奢な手だった。
自分の方が彼よりも強く大きい。
まだ、八歳といったか。
幼く小さな体をしているのだから、立つ意志の無い人間を彼だけの力で動かすのは難しいはずだ。
ゆっくりと手をつないだまま立ち上がる。
少年は少しだけ息を弾ませた。
ハンカチから覗く手を見て、眉を顰める。
「これは酷い」
「え……」
「爪が割れているし剥がれかけている」
冷たくなっているのに、傷口だけは熱を持ちじりじりと痛む。
だがもはやそんな事は如何でも良かった。
容姿、仕草、言葉。
僅かな時間で、目の前の少年に今まで感じた事の無い魅力を覚えた。
乳臭さの残る声も柔らかくて、何時までも聞いて居たくなる。
ハンカチ越しにそっと包む小さな手を見つめて、気分が高揚する。
それなのに、切ないほどに胸が締め付けられる。
家族の態度を見れば、自分がいかにこの家の恥部か分かるだろう。
しかし少年は、そんな彼らを見向きもせずにこうして傷を心配し優しい言葉までくれたのだ。
――常に失敗ばかりの自分を、初めて庇ってくれたのが目の前の彼なのだ。
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