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第5話

「錦様」 「失言を詫びろ」 庇われたことに、やはり唖然とした。 こんな格好で彼らの前に出た自分に非がある。 汚れているのも、怪我をしたのも転んだ所為だ。 誰も悪くはない。自業自得なのだ。 縁談の顔合わせの最中、両家の和やかな雰囲気を台無しにしたのも自分だ。 しかし少年は責める事もしなければ、非難の眼差しさえ向けない。 「――貴方の態度は失礼だと言っている」 付人は負け犬の様な情けない表情を浮かべ錦を見返す。 少年の慈悲を乞う眼差しだ。 睨みつけているわけではないのに、彼よりも倍生きた大人の男を射竦める眼差し。 怒声ではないのに。静かに耳を打つ声は目の前の相手を気圧する強さがある。 兄に高圧的に見下ろされれば毅然と見返し、鋭利な言葉に怯まず切り返す。 虚勢ではない、僅か八歳の少年の凛とした雰囲気。 この子は、一体何なのだろう。

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