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第3話

錦は常にスーツを着ていた。 皺ひとつないシャツは白か偶に淡いブルー。 きっちりと締められたネクタイは、ディンプルまで完璧なウィンザーノット。 表情が薄く、それでいて整っているから一層硬質さが増す。 まるで鎧を身にまとっている様に見えた。 錦は声を立てて笑ったり、冗談を言ってふざける事は一度も無い。 彼が着こなすスーツのように、完璧で、隙が無くてそれ故に距離感があった。 普段はどんな服を着るのだろう。 自宅ではもっとカジュアルな装いの筈だ。 一度も見た事の無い、制服姿の彼とも会ってみたい。 家では学校ではどんな風に振る舞うのか、もっと彼の色んな姿を見たい。 一番見てみたいのは笑う顔だ。 時折淡く乗せる程度で、彼は表情を面に出さない。 しかし、あれだけ端正な顔立ちなのだから、満面の笑顔は驚くほどに綺麗な筈だ。

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