57 / 218
第3話
錦は常にスーツを着ていた。
皺ひとつないシャツは白か偶に淡いブルー。
きっちりと締められたネクタイは、ディンプルまで完璧なウィンザーノット。
表情が薄く、それでいて整っているから一層硬質さが増す。
まるで鎧を身にまとっている様に見えた。
錦は声を立てて笑ったり、冗談を言ってふざける事は一度も無い。
彼が着こなすスーツのように、完璧で、隙が無くてそれ故に距離感があった。
普段はどんな服を着るのだろう。
自宅ではもっとカジュアルな装いの筈だ。
一度も見た事の無い、制服姿の彼とも会ってみたい。
家では学校ではどんな風に振る舞うのか、もっと彼の色んな姿を見たい。
一番見てみたいのは笑う顔だ。
時折淡く乗せる程度で、彼は表情を面に出さない。
しかし、あれだけ端正な顔立ちなのだから、満面の笑顔は驚くほどに綺麗な筈だ。
ともだちにシェアしよう!